クロモリVSアルミ
ツーリング車のフレームはクロモリ(鉄)が良いとか、軽量で安価なアルミが良いとか色々な説がありますが、私の自転車は色々考えた末にクロモリを採用しました。
よくクロモリ愛好家の中に「クロモリフレームはしなるので乗り心地が良く長距離乗っても疲れない」という話を聞きます。しかし普通に考えると「アルミより鉄のほうが変形しにくいから乗り心地が悪いのでは?」とも思ってしまいます。そこでネットの情報を頼りに色々と理由を考察してみました。
※以下は素人がネットで調べた考えなので鵜呑みにしないでください
材料の変形のしやすさの指標
材料の変形のしやすさや材料の剛性を評価する指標としてヤング率というものがあります。後ほど説明しますがこの値は応力σとひずみεの関係を表すもので、鉄系の材料は約210000N/mm^2、アルミ系の材料は約70000N/mm^2くらいで、鉄とアルミでヤング率が約3倍の差があります。
そしてヤング率にはフックの法則とよばれる以下の法則があります。
①σ=E×ε
σ:応力(=荷重F/断面積A)
E:ヤング率
ε:ひずみ(=ΔL/L)
L:材料の長さ
ΔL:材料の伸び
F:荷重
A:断面積

材料の剛性は、かけた荷重Fと伸びた長さΔLで評価するのではなく、応力σという単位面積あたりにかかる力とひずみεという元の長さに対してどれだけ伸びたのかで評価をする必要があります。
例えば、1000Nの荷重を断面積1㎜^2の材料と断面積100㎜^2の材料(長さはどちらも同じ)にかけたと想定します。単純に荷重で見ると、どちらも同じ1000Nの荷重をかけているので伸びやすさに違いはないとなってしまいます。
これを応力という単位面積当たりの荷重で考えると、断面積1㎜^2の材料は1000N/1㎜^2=1000N/㎜^2となり、断面積100㎜^2の材料は1000N/100㎜^2=10N/㎜^2となり、応力でみると値が100倍違うことが分かります。
また、ある材料を引っ張って1㎜伸ばしたとします。長さが1000㎜の材料を1㎜伸ばすのと長さが1㎜の材料を1㎜伸ばすのでは、変形させるのに必要な荷重がまるで違ってきてしまいます。
従ってひずみと呼ばれる元の長さに対してどれだけ伸びたかという指標で評価する必要があります。1000㎜の材料が1㎜伸びた場合のひずみは1㎜/1000㎜=0.001、1㎜の材料が1㎜伸びた場合のひずみは1㎜/1㎜=1となります。
まとめると、応力とひずみという2つの指標を使うことで、材料の形状に関係なく剛性を評価することができます。
そして、σ=A/F、ε=ΔL/Lなのでこれを①に代入すると、変形量ΔLを算出することができます(②式)。
②ΔL=F×L/A×E
断面積A以外のパラメータが同じであれば、断面積1㎜^2の材料は100㎜^2の材料の100倍変形するということが分かります。
また、②の式をよく見ると分母には断面積Aのほかにヤング率Eがあります。従って、鉄とアルミでヤング率が3倍違うので、材料の形状が同じであればアルミのほうが鉄よりも3倍変形するということが分かります。
長くなりましたがまとめると、変形量ΔLは断面積Aとヤング率Eで決まるということです。材料の形状が同じであればアルミは鉄の3倍変形するということが分かります。
ということで、ヤング率の低いアルミのほうが変形しやすいので乗り心地がよいという結論になってしまいました。そこでもう少し調査をしてみました。
鉄とアルミで許容できる応力が違う
先ほどの①式のフックの法則をグラフにすると以下のようになります。

このグラフは、左側の材料に荷重Fを加えた際に、応力σとひずみεの関係がどうなっていくのかを表したものになります。
ここで注目したいのは応力とひずみの関係は、ある点(降伏応力)までは直線的に変化するのに対して、それ以降は曲線的に変化して最終的に破断してしまうという点です。直線的に変化する区間(青線)は弾性変形と呼ばれる変形をする区間で、曲線的に変化する区間(緑線)は塑性変形と呼ばれる変形をする区間で、弾性変形とは変形しても元の長さに戻り、塑性変形は変形したら元の長さに戻らないという変形になります。
つまり、降伏応力以下であればもとの形に戻ることができるが、それ以上の応力になると元の形に戻れなくなるということです。従って自転車のフレームとして考えた場合、少なくとも弾性変形の範囲内となるようにフレーム形状を決める必要があります。
ここで重要なのは降伏応力で、成分や熱処理等で変わるので一概に言えませんが、アルミ系の材料は鉄系の約1/3倍程度しかありません。よってアルミフレームの場合は鉄の1/3の応力(=断面積を3倍にする)にする必要があります。そうすると結果的に鉄もアルミも変形量ΔLは同じということになり、アルミも鉄も乗り心地は変わらないという結論になってしまいました。(ΔL=F×L/A×EなのでAが3倍になってもEが1/3なのでΔLは結局同じ)
梁の曲げ問題で剛性を考える
上記の理論は、材料を垂直方向に引張った場合の応力でしたが、実際の自転車は曲げ方向に荷重がかかるため、梁の曲げ問題に置き換えて考えてみました。
詳細は割愛しますが、梁の曲げは以下のような式で表されます。
①曲げ応力σ=M/Z
②たわみ量δ=(F×L^3)/(192×E×I)
M:曲げモーメント(F×L)
Z:断面係数(𝛑/32×(D^4―d^4)/D)
I:断面2次モーメント(1/64×𝛑×(D^4―d^4))
e:中心からの距離
L:梁の長さ
F:荷重
D:パイプ外径
d:パイプ内径
E:ヤング率

今回は例として、長さLが550㎜、外径Dが30㎜、内径dが29mmのパイプの真ん中に荷重5000N(500kgf)の荷重をかけた場合の鉄とアルミそれぞれの曲げ剛性を比較してみます。結果は下記の表のような形になりました。
※実際は疲労破壊を考慮してこれより小さい応力にする必要あり
まずNo.1の結果を見てみます。たわみ量は4.19㎜で曲げ応力が1023N/mm^2、パイプの質量が0.2㎏となります。
No.2は、No.1の材質をアルミに変更したもので、ヤング率Eが1/3になるのでたわみ量は3倍の12.1㎜、質量が0.07㎏(密度が鉄の1/3なので)となりました。
しかし、アルミの降伏応力は鉄の1/3なので、曲げ応力も1/3にする必要があります。そこでNo.3では内径dを小さく(肉厚増加)して応力を1/3にした仕様になります。結果としてはたわみ量がNo.1とほぼ同等、質量が若干重くなりました。
最後のNo.4は外径Dを30㎜から50.5㎜に大口径化して応力を1/3にした仕様になります。この仕様だと応力はNo.3と同等でありながら、たわみ量と質量は大幅に低下するという最もベストな結果になりました。
上記結果から以下が分かりました。
・アルミフレームは鉄よりも断面積を確保する必要がある
・断面積を確保する場合、外径を大きくして薄肉化したほうがより軽量・高剛性になる
・細身のフレームは軽量・高剛性の面から考えると不利
近年のアルミフレームの特徴として、外径の大きなパイプを使用しているものがほとんどなのでNo.4の仕様に相当します。従ってアルミフレームのほうが軽量で剛性の高いフレーム、つまり軽量だが乗り心地の悪いフレームになっているのではないかと考えられます。
逆にアルミで鉄と同じような乗り心地を確保しようとすると、外径を小さく肉厚を増加させる必要があり(No.3の仕様)、むしろ鉄よりも若干重くなってしまう可能性すらあります。
ただし、薄肉大口径の軽量高剛性フレームにも弱点があります。上記の理論はあくまでパイプ全体を曲げた場合(パイプ全体の剛性)の話ですが、例えば転んでフレームの一部分に局所的な荷重がかかった場合、薄肉の大口径パイプですと簡単にへこんだり穴が開いたりしてしまうでしょう。一方、昔ながらの細身の肉厚パイプであれば局所的な荷重にも強いはずです。
従って、長期ツーリングでは重くはなりますが昔ながらの細身のクロモリフレームの自転車の方がイレギュラーな荷重にも対応できて信頼性の面では有利ではないかと考え、私はクロモリ製の自転車を愛用しています。
ツーリング車のフレームはクロモリ(鉄)が良いとか、軽量で安価なアルミが良いとか色々な説がありますが、私の自転車は色々考えた末にクロモリを採用しました。
よくクロモリ愛好家の中に「クロモリフレームはしなるので乗り心地が良く長距離乗っても疲れない」という話を聞きます。しかし普通に考えると「アルミより鉄のほうが変形しにくいから乗り心地が悪いのでは?」とも思ってしまいます。そこでネットの情報を頼りに色々と理由を考察してみました。
※以下は素人がネットで調べた考えなので鵜呑みにしないでください
材料の変形のしやすさの指標
材料の変形のしやすさや材料の剛性を評価する指標としてヤング率というものがあります。後ほど説明しますがこの値は応力σとひずみεの関係を表すもので、鉄系の材料は約210000N/mm^2、アルミ系の材料は約70000N/mm^2くらいで、鉄とアルミでヤング率が約3倍の差があります。
そしてヤング率にはフックの法則とよばれる以下の法則があります。
①σ=E×ε
σ:応力(=荷重F/断面積A)
E:ヤング率
ε:ひずみ(=ΔL/L)
L:材料の長さ
ΔL:材料の伸び
F:荷重
A:断面積

材料の剛性は、かけた荷重Fと伸びた長さΔLで評価するのではなく、応力σという単位面積あたりにかかる力とひずみεという元の長さに対してどれだけ伸びたのかで評価をする必要があります。
例えば、1000Nの荷重を断面積1㎜^2の材料と断面積100㎜^2の材料(長さはどちらも同じ)にかけたと想定します。単純に荷重で見ると、どちらも同じ1000Nの荷重をかけているので伸びやすさに違いはないとなってしまいます。
これを応力という単位面積当たりの荷重で考えると、断面積1㎜^2の材料は1000N/1㎜^2=1000N/㎜^2となり、断面積100㎜^2の材料は1000N/100㎜^2=10N/㎜^2となり、応力でみると値が100倍違うことが分かります。
また、ある材料を引っ張って1㎜伸ばしたとします。長さが1000㎜の材料を1㎜伸ばすのと長さが1㎜の材料を1㎜伸ばすのでは、変形させるのに必要な荷重がまるで違ってきてしまいます。
従ってひずみと呼ばれる元の長さに対してどれだけ伸びたかという指標で評価する必要があります。1000㎜の材料が1㎜伸びた場合のひずみは1㎜/1000㎜=0.001、1㎜の材料が1㎜伸びた場合のひずみは1㎜/1㎜=1となります。
まとめると、応力とひずみという2つの指標を使うことで、材料の形状に関係なく剛性を評価することができます。
そして、σ=A/F、ε=ΔL/Lなのでこれを①に代入すると、変形量ΔLを算出することができます(②式)。
②ΔL=F×L/A×E
断面積A以外のパラメータが同じであれば、断面積1㎜^2の材料は100㎜^2の材料の100倍変形するということが分かります。
また、②の式をよく見ると分母には断面積Aのほかにヤング率Eがあります。従って、鉄とアルミでヤング率が3倍違うので、材料の形状が同じであればアルミのほうが鉄よりも3倍変形するということが分かります。
長くなりましたがまとめると、変形量ΔLは断面積Aとヤング率Eで決まるということです。材料の形状が同じであればアルミは鉄の3倍変形するということが分かります。
ということで、ヤング率の低いアルミのほうが変形しやすいので乗り心地がよいという結論になってしまいました。そこでもう少し調査をしてみました。
鉄とアルミで許容できる応力が違う
先ほどの①式のフックの法則をグラフにすると以下のようになります。

このグラフは、左側の材料に荷重Fを加えた際に、応力σとひずみεの関係がどうなっていくのかを表したものになります。
ここで注目したいのは応力とひずみの関係は、ある点(降伏応力)までは直線的に変化するのに対して、それ以降は曲線的に変化して最終的に破断してしまうという点です。直線的に変化する区間(青線)は弾性変形と呼ばれる変形をする区間で、曲線的に変化する区間(緑線)は塑性変形と呼ばれる変形をする区間で、弾性変形とは変形しても元の長さに戻り、塑性変形は変形したら元の長さに戻らないという変形になります。
つまり、降伏応力以下であればもとの形に戻ることができるが、それ以上の応力になると元の形に戻れなくなるということです。従って自転車のフレームとして考えた場合、少なくとも弾性変形の範囲内となるようにフレーム形状を決める必要があります。
ここで重要なのは降伏応力で、成分や熱処理等で変わるので一概に言えませんが、アルミ系の材料は鉄系の約1/3倍程度しかありません。よってアルミフレームの場合は鉄の1/3の応力(=断面積を3倍にする)にする必要があります。そうすると結果的に鉄もアルミも変形量ΔLは同じということになり、アルミも鉄も乗り心地は変わらないという結論になってしまいました。(ΔL=F×L/A×EなのでAが3倍になってもEが1/3なのでΔLは結局同じ)
梁の曲げ問題で剛性を考える
上記の理論は、材料を垂直方向に引張った場合の応力でしたが、実際の自転車は曲げ方向に荷重がかかるため、梁の曲げ問題に置き換えて考えてみました。
詳細は割愛しますが、梁の曲げは以下のような式で表されます。
①曲げ応力σ=M/Z
②たわみ量δ=(F×L^3)/(192×E×I)
M:曲げモーメント(F×L)
Z:断面係数(𝛑/32×(D^4―d^4)/D)
I:断面2次モーメント(1/64×𝛑×(D^4―d^4))
e:中心からの距離
L:梁の長さ
F:荷重
D:パイプ外径
d:パイプ内径
E:ヤング率

今回は例として、長さLが550㎜、外径Dが30㎜、内径dが29mmのパイプの真ん中に荷重5000N(500kgf)の荷重をかけた場合の鉄とアルミそれぞれの曲げ剛性を比較してみます。結果は下記の表のような形になりました。
※実際は疲労破壊を考慮してこれより小さい応力にする必要あり
No. | 1 | 2 | 3 | 4 |
材質 | 鉄 | アルミ | アルミ | アルミ |
密度ρ(kg/mm^3) | 0.00000786 | 0.0000028 | 0.0000028 | 0.0000028 |
ヤング率E(N/mm^2) | 205000 | 71000 | 71000 | 71000 |
長さL(mm) | 550 | 550 | 550 | 550 |
荷重F(N) | 5000 | 5000 | 5000 | 5000 |
パイプ外径D(mm) | 30 | 30 | 30 | 50.5 |
パイプ内径d(mm) | 29 | 29 | 26.75 | 49.5 |
パイプ肉厚(mm) | 0.5 | 0.5 | 1.625 | 0.5 |
断面積A(mm^2) | 46.34 | 46.34 | 144.86 | 78.54 |
断面2次モーメントI(mm^4) | 5042 | 5042 | 14627 | 24546 |
断面係数Z(mm^3) | 336.15 | 336.15 | 975.11 | 972.12 |
たわみ量δ(mm) | 4.19 | 12.10 | 4.17 | 2.49 |
応力σ(N/mm^2) | 1022.6 | 1022.6 | 352.5 | 353.6 |
パイプ質量W(kg) | 0.20 | 0.07 | 0.22 | 0.12 |
まずNo.1の結果を見てみます。たわみ量は4.19㎜で曲げ応力が1023N/mm^2、パイプの質量が0.2㎏となります。
No.2は、No.1の材質をアルミに変更したもので、ヤング率Eが1/3になるのでたわみ量は3倍の12.1㎜、質量が0.07㎏(密度が鉄の1/3なので)となりました。
しかし、アルミの降伏応力は鉄の1/3なので、曲げ応力も1/3にする必要があります。そこでNo.3では内径dを小さく(肉厚増加)して応力を1/3にした仕様になります。結果としてはたわみ量がNo.1とほぼ同等、質量が若干重くなりました。
最後のNo.4は外径Dを30㎜から50.5㎜に大口径化して応力を1/3にした仕様になります。この仕様だと応力はNo.3と同等でありながら、たわみ量と質量は大幅に低下するという最もベストな結果になりました。
上記結果から以下が分かりました。
・アルミフレームは鉄よりも断面積を確保する必要がある
・断面積を確保する場合、外径を大きくして薄肉化したほうがより軽量・高剛性になる
・細身のフレームは軽量・高剛性の面から考えると不利
近年のアルミフレームの特徴として、外径の大きなパイプを使用しているものがほとんどなのでNo.4の仕様に相当します。従ってアルミフレームのほうが軽量で剛性の高いフレーム、つまり軽量だが乗り心地の悪いフレームになっているのではないかと考えられます。
逆にアルミで鉄と同じような乗り心地を確保しようとすると、外径を小さく肉厚を増加させる必要があり(No.3の仕様)、むしろ鉄よりも若干重くなってしまう可能性すらあります。
ただし、薄肉大口径の軽量高剛性フレームにも弱点があります。上記の理論はあくまでパイプ全体を曲げた場合(パイプ全体の剛性)の話ですが、例えば転んでフレームの一部分に局所的な荷重がかかった場合、薄肉の大口径パイプですと簡単にへこんだり穴が開いたりしてしまうでしょう。一方、昔ながらの細身の肉厚パイプであれば局所的な荷重にも強いはずです。
従って、長期ツーリングでは重くはなりますが昔ながらの細身のクロモリフレームの自転車の方がイレギュラーな荷重にも対応できて信頼性の面では有利ではないかと考え、私はクロモリ製の自転車を愛用しています。
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